「賃料収入からローン返済ができる」と営業マンから説明がありました。
その不動産投資はどちらのパターンでしょうか。
⇒ 原則、不動産投資というものは、初年度等を除き支出が収入を上回ってBTCF(税引き前現金収支)がマイナス(損失)の状態を続けて他の収入の節税を計るものではありません。
それは一つの事業として、経営が破綻、若しくは破綻寸前の状態です。
ここで混同されるのが、築古木造等を用いた短期間での減価償却による節税スキームです。
こちらは会計上マイナスですがBTCF(税引き前現金収支)はプラスを基本とします。
従って、似て非なるものとなります。
■グラフ1のケース
・賃料 < 空室損+OPEX(運営費(※))+ADS(年間借入返済額)
収入<支出
■グラフ2のケース
・GPI(潜在総収入)= 空室損+OPEX(運営費(※))+ADS(年間借入返済額)+BTCF(税引き前現金収支)
収入≧支出
(※)分譲マンションの場合、管理費・修繕積立金を含む。
不動産投資の運営時の支出は、ローン返済・管理費・修繕積立金だけではありません。
固定資産税等・都市計画税を含む運営費、賃借人募集時の広告費、原状回復費、賃貸管理手数料などを支払い、残りのBTCF(税引き前現金収支)の一部を不測等の事態に備える為にプールできるものが不動産投資であり、不動産賃貸業の原理原則になります。
因みに、グラフ1については、BTCF(税引き前現金収支)がありません。
バッファがない以前の問題にはなります。
従って、グラフ2が本来あるべき収支になります。
「税金の還付等があるからマイナスでも良いのではないか。」と考えられる方がいらっしゃいますが、実際に支出した金額未満の節税(個人の場合、最大55%)にしかなりません。
「では、実際の支出が伴わない減価償却費ならば問題ないのではないか。」となるのでしょうが、最終、売却時の譲渡所得税に影響する可能性があります。
売却価格が減価償却後の帳簿価格より下回っていれば課税されませんが、上回っていれば課税対象になります。(※)
※以下を含め本質を理解していただく為に簡易化しております。
譲渡所得税の税額について正しくは下記の計算式により計算します。
① 課税譲渡所得金額=譲渡価額―取得費―譲渡費用―特別控除
② 所得税額・住民税=課税譲渡所得金額×短期所有39%(長期所有20%)
※令和19年まで復興特別所得税として、所得税額の2.1%が別途かかります。
例えば、下記条件にて個人が投資目的で区分所有マンションを購入し、4年後に売却しました。
- 所得税率23%・住民税率10%
- 購入価格:3000万円
- 減価償却費:4年間合計300万円
- 会計上 損失計上額:4年間合計300万円
- 売却価格:3000万円
減価償却費に対して所得税・住民税の節税額合計は99万円になります。
この点だけを見ると実際の支出がない減価償却費にはメリットしかありません。
しかし、売却時には譲渡所得として所得税・住民税は合計117万円が課税されます。
つまり、節税の先食いをしただけなのです。
因みに、売却価格2700万円とした場合、譲渡所得税は課税されませんが売却価格3000万円と比較すると300万円下がっています。
少し極端の例でしたが、減価償却による帳簿価格の下がるメリットとデメリットの両方が存在しています。
後、不動産投資により年収倍率規定のある金融機関の利用から次のステップ(資産拡大)に進める場合、(年収倍率規定のない)金融機関は融資の際にB/S(貸借対照表)・PL(損益計算書)を審査します。
それらが毀損し、また解消できない物件の購入は避けるべきでしょう。
物件によってはマネーリテラシーを問われますのでご注意ください。
では、今回のまとめです。
- 原則
・GPI(潜在総収入)=空室損+OPEX(運営費(※))+ADS(年間借入返済額)+BTCF(税引き前現金収支)
※グラフ2ご参照
- 減価償却による節税はメリットがあるが、デメリットが顕在化するケースがあります。
- 不動産の投資判断は、総合的に俯瞰する事が非常に大切です。
目先のものばかりに焦点を合わせていると視野が狭くなり、客観的且つ冷静な判断に欠けます。
最後にグラフ1とグラフ2を見比べて支出以外にお気付きの点はありませんでしたか。
収入についてグラフ1は賃料、グラフ2はGPI(潜在総収入)としている点です。
賃料は現況賃料であり、新築プレミアム賃料や長期に入居されている入居時の賃料等と現在の相場賃料では乖離があるケースが殆どです。
つまり、グラフ2は新築プレミアム分をマイナスし、昔の賃料から現在の相場賃料に引き直しなどをして現在の相場賃料による収支をみています。
何故ならば、これらの入居者が退去した後、次の入居者の賃料は一般的に大なり小なり下落します。
事が起こってから大慌てで対処法を考えるものではありません。
『事前準備』これに尽きます。
これは想定可能な範囲ですから、それを加味しCF(現金収支)としてどうなのかを検討すべきなのです。
最後まで、お読みいただき誠にありがとうございました。
感謝
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